
こんにちは。sallyです。
民主党がマニフェストに掲げた公約を実現させるためにと、
「八ツ場ダム(やんばダム)」の建設を中止にしようとする動きが本格的になってきましたね。この問題をニュースなどで見聞きするたびに、私はふとしたことから知ることとなった、ある一家のことが胸によぎります。
------この話は、ちょっと長くなりますので、ご了承くださいませ------
上の写真は、昨年の夏の終わりに、群馬県の四万温泉から帰る途中に立ち寄った
中之条ダムで撮った1枚です。たまたまダムの放流が始まったところで、轟音とともに落ちる水しぶき、そこにかかる虹を見て感激したのでした。当時、仕事のことで悩みを抱えていたころだったのですが、何だか胸のもやもやが晴れるような、そんな気持ちになったことを覚えています。
さて、この中之条ダムからさらに車を走らせて帰路につこうとしている途中に、「ちょっと休憩していこうか」と立ち寄ったのが、
「カフェ・ビスケット」という可愛らしい名前のカフェでした。外から見るとまるでレストランのようで、中に入ってみると、広い店内にどっしりとしたテーブルやイスが置かれ、居心地のいい空間になっていました。
珈琲と、フルーツがあしらわれた手作りのケーキをいただいたのですが、珈琲カップが温もりのある手になじむものだったので、帰りがけに「なんという作家さんのものですか?」とたずねると、2人いらしたご婦人のうちの、お年を召された方の手作りというではありませんか。
「四万温泉の帰りには、またきっと立ち寄りますね」と約束し、お店を後にしたのですが…
実は、そのとき、レジのところに「風の吹く道」という本が何冊か置かれていました。そのときには、「近隣のお客さんとか親しい方が書かれた本なのかな」と思って、その本のことは話題にしないまま帰ってきてしまったのですが、なんとなく気になって、ネットで買えないかどうか調べてみたところ、見つかったんですよね。
それで、さっそく購入し、読んでみると…
この
風の吹く道 (現代名随筆叢書89)
という本は、あの「カフェ・ビスケット」のオーナーである竹田朋子さんが書かれた随筆集だったのです。レジにいらした二人の女性のうちの一人が、この竹田朋子さんで、珈琲カップを作っていらしたのが、そのお母様。
さあ、ここからが本題です。実はね、随筆集によると、この竹田さんのご一家は、今回の八ツ場ダムの建設のために消えようとしている川原湯温泉で長年旅館を営んでこられたのでした。本の中にはこんな一文があります。
家業である旅館経営に携わったのは、結婚2年目。27歳のときである。あれから22年。商売の苦手な私はとにかくやるしかなく、無我夢中であった。当地はダム建設により水没し、そう遠くない時期に、近隣に造成中の代替地に移転することになっている。
けれども、代替地の造成はなかなか進まないこと、その地で再び旅館を営んでいくことはかなり難しいことなどから、ついに川原湯を離れて、新天地で「カフェ」を開こうと決心されたのです。
…とここまで、読んでも、「いろいろ大変だったんだね」で終ってしまうかもしれません。でもね、まだ続きがあるんです。この竹田朋子さんのお父様(さっきの珈琲カップづくりのご主人)は、この八ツ場ダム建設反対派の筆頭にいた方なんです。
産経ニュースの記事でも、竹田博栄さんのコメントが紹介されています。
50年以上にもわたって「川原湯」を残すために反対し続けてきた竹田さんが、ようやく心に決着をつけて、長年住み続けた土地が水没することに納得し、中之条に引っ越すことを決めて新しい生活が始まって3年弱。この長い戦いの間には、地元の推進派と反対派で争いが起こり、苦しい日々が多かったといいます。
実は、竹田博栄さんのことも、カフェ・ビスケットから帰るときに、お店の外にいらっしゃった様子をちらりとお見かけしています。お元気そうではありましたが、ご高齢でいらっしゃいました。
本当のところ、どうするのが最善の道なのか、私にも判断がつきかねますが、人生のほとんどをこの八ツ場ダムの問題に振り回されてきた人が大勢いるということを、もう少し省みてもいいのではないかなと思われてなりません。
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こうしたニュースを見聞きしても、なかなか他人事としてか捉えられないものですが、たまたま立ち寄ったカフェ、そこに置いてあった本…、それがきっかけで目を離せない問題として深く心に刻まれています。
どんな形で終息を迎えるにせよ、竹田さんご一家をはじめとする地元の人たちが、1日も早く心安らかに過ごせる日が来ますようにと願うばかりです。