2019年10月30日

家電のオーバースペック問題について考える〜エアコン編

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こんにちは。家電+ライフスタイルプロデューサーの神原サリーです。

9月に終了したメルマガで盛り上がった話題の1つに「家電のオーバースペック問題」があります。その発端は、アトリエで使っているエアコンがなぜだか快適に冷えないということから始まりました。

アトリエでここ数年愛用している機種の最新モデルを春から使っていたのですが、それまでのモデル同様にサイドファンを使った送風運転が初夏の間は心地よく、気に入っていました。ところが夏が到来したら、冷えが悪いのですね。昨年までのものはそんなことがなかったのにおかしいなあと思いつつ、24度設定まで下げてみたりしたのですが、いつのまにか冷気が弱まってしまっているように感じて「ちゃんとひやしてー」と叫んでしまうことがあったほど。

もっと困るのは猛暑の中、お客様が汗だくで来ているのに、例によっていつのまにか冷気が弱まってしまう事態が起きてしまい、さすがにおかしいと思って取扱説明書やパンフレットを熟読したところ、次のようなことがわかりました。

・「不在ECO」の設定が初期設定の『オートセーブ』のままで使っていたため、室温が高い場合、人と体温との差が小さすぎるため、人がいないと判断して、設定温度を最大で2度上げてしまう。

・たった10分ほどの不在(検知)でこの機能が発動するため、いくらか冷えてきたタイミングでも、動かないでじっとしていると不在とみなされ、設定温度が勝手に上がってしまい、冷房運転が弱まってしまう。

・サイドファンを活用した「快適おまかせ気流」は“冷えすぎない自然な涼しさ”を追い求めているため、部屋がしっかりと冷えて室温が安定してからは威力を発揮するが、そこに達するまでの間は「冷気+生暖かい室温の風」が届くため、涼しさを感じにくい。

つまり、とことん優しい冷房のため、高齢者や冷房が苦手な女性にはいいのかもしれませんが、来客が多かったり、長時間過ごすことの少ないアトリエのような場所には向いていないということなのですね。

それにしても、人感センサーが不在を検知して10分経ったらもう設定温度が2度上がってしまう機能があるなんて、しかも不在ではなく動いていないだけでそのように判断してしまう機能を出荷時の設定にしてあるなんて、「余計なお世話」としか言いようがありません。だって、みんなで顔を突き合わせて打ち合わせしているのに、それを「不在」だとしてしまうなんて。

そういえば、私が打ち合わせ中に「設定温度を24度まで下げたのに変ですね。おーい、エアコン冷えて―!」と立ち上がったと思ったら、エアコンから冷気が出始めて、お客さんに「あれ、冷たい空気がぐんぐん出てきましたよ。声が聞こえたんでしょうか」と言われたことがありましたっけ。これは、私が立ち上がったから、動きを検知して「不在から戻ってきた」と判断したのですね。

省エネや節電ということが声高に叫ばれるようになってだいぶ経ちますが、高機能なものほど自動で省エネモードになる機能が満載になっていて、「暑さを緩和して涼しいところで過ごしたい=冷やしてほしい」という基本機能がどこかへ行ってしまったような気がします。

不在ECOをオフにして、サイドファンを「切」にしたとたん、アトリエがちゃんと冷えてきたことに驚き、余計なお世話の機能たちに絶望さえ感じたこの夏の私なのでした。

センサー機能の充実(!)で、たった10分の不在、しかも動いていないことさえも不在と判断して、設定温度を2度も上げてしまうという事実。そしてそれがデフォルトで設定されていて、取説などを読んでその事実に気が付かないと「なんで冷えないのだろう?」と疑問に思ったまま、悶々として使わなければならにという不毛さ。まさに「冷えないことの絶望」です。

その後、昨年モデルではありますが、同じ機種を自分の部屋に設置した息子にこの話をしたところ、「去年、同じ経験をした。絶望という言葉がよくわかる」と。いやはやなんということでしょう。よかれと思って搭載した機能が、購入者(使用者)をこんなにも苦しめているとは。

息子曰く「メーカーの商品開発の人はこのエアコンを家で使っていないのかな」。いえ、使っているのを知っています。でも、たぶんリビング。個室では使っていないはず。そしてもしかすると、不在エコ機能はオフにしているのかもしれません。本当に不在であるなら、これは省エネになるのかもしれませんが、動かないだけでそれを不在としてしまうのだとしたら、便利な機能とは言いかねますよね。息子の部屋も私のアトリエも「不在エコ」機能は、デフォルトで設定済みなことに気が付いてからはリモコンを操作して「オフ」にしたので、もう大丈夫。かなり快適になりました。

最後に、ノクリアX(←読んでいれば機種名、お分かりになる方が多いと思います)を全否定したいのではなくて、初期設定問題に苦言を呈したいだけだということをわかってほしいなとは思います。そして、使う場所によって機種を選ぶ必要があるということ。リビングダイニングのような広い空間で24時間ずっとつけっぱなしというような使い方をするなら、ノクリアXは最適なように思います。

それとノクリアXのサイドファンがいちばん活躍するのは、春や初夏や秋などの季節に窓を開けたままで使う「送風」の時なのかもしれません。窓が1つしかなくても外気をうまく取り込んで自然(高原)の中にいるようなそよそよとした風の心地よい気流を作り出して、極上の空間にしてくれますから。




2019年10月29日

過去に製品化したものを再定義してみることの重要性

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こんにちは。家電+ライフスタイルプロデューサーの神原サリーです。

相変わらずタピオカが人気のようですが、先日朝の情報番組では次に来るものはなんだろうという予測をしていました。アンケート結果では「バナナジュース」となっていて、銀座その他、いろいろなところに行列ができるバナナジュース屋さんがすでにあるのですね。アトリエの並びにも昨年の秋くらいにバナナジュース屋さんができましたが、まだ行列はできていないようです。

でね、タピオカも若い人には新鮮でも、私にしてみれば「あれ?前にも流行らなかったっけ?」というわけで、少し不思議に感じています。どうやら、今回のブームで人気のタピオカは前のブーム時のものよりも粒が大きめで、味のバリエーションもタピオカミルクティーだけでなく、豊富にそろっているのですね。さらにインスタ映え的な要素も加わって、新しいブームを作り出しているようです。

新ブームと噂されているバナナジュースも完熟バナナが入荷していない日にはお店を閉めていたり、世界中のバナナの種類に応じたバナナジュースを作っていたりと、話題性には事欠かない様子。何も新しいメニューを考えたり、どこかから珍しいスイーツを引っ張ってこなくても、まだやれることはあるというわけです。

こうした事例は行列のできるスイーツ店に限らず、家電製品にも当てはまるのではないかと思っています。つまり「過去に製品化したものの再定義」です。一度手掛けてヒットしなかったから除外するのではなくて、今のライフスタイルにフィットした形とは何なのかをじっくり考えて新しいものとして再定義するのです。

特に家電製品においては、革新的なイノベーションを求められていると思いこみ過ぎて、生活者たちの現実を見失ってしまうことが多々あります。メルマガで何回かに分けて書いてきた「多機能・高機能過ぎることへの絶望」問題も、革新的なイノベーションを追い求め過ぎているから出てきたことです。

それよりも過去に製品化したものの中で「これは!」というものを違う視点で見直してみたり、過去にその製品をどのように伝えてきたのかを見直してみること。つまり「意味のイノベーション」です。

私自身が再定義化して復活させてほしいと思っている家電には、シャープの『塩で洗うコンパクトな食洗機』があります。洗剤が要らないという点でも魅力的ですし、3人分程度の食器が入るコンパクトさも今の世の中にぴったりです。もしもここに新しい要素を加えるとしたら、タンク式にして水栓の工事不要にすることでしょうか。

つい先ごろ、シロカが工事不要のタンク式の食洗器を発表しており、5万円弱という価格や大きさなどで人気を集めそうな気配です。同社はヒーター系などで不具合を起こしたりもしていて、安全面での信頼性に若干欠けるところがあるため、この製品についても様子見ではあるのですが、賃貸住宅に住む人や、シニア層にはうれしいですよね。5リットルの水を自分で入れる手間はかかりますが、それは反対に「5Lしか使わない」ことを意識できるということでもあります。

水栓につなぐ工事をしてしまえば、水を入れる手間は省けるけれど、実際にどれくらい節水になっているのか(使っている水はどれくらいなのか)はわかりません。ある意味、逆転の発想といえるかもしれません。シャープが工事不要のタンク式の「塩で洗える食洗機」をぜひ作ってほしいなあと思います。

ほかにも見直していけば素敵によみがえるもの、いろいろあるのではないでしょうか。


2019年10月26日

ルイスポールセンのあかりとグリニッチのビンテージ家具とヒュッゲと

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こんにちは。家電+ライフスタイルプロデューサーの神原サリーです。

今年60周年のアニバーサリーを迎える北欧デンマークのルイスポールセンのショールームで取材をさせていただく機会を得ました。名前は知らなくとも「その照明、見たことがある!」というのが多いのが同社の代表的なPH5という名作です。

これは1958年にポール・ヘニングセンがデザインしたもので、「PH5」という名前もその頭文字からきたものです。大きなポイントが電球を覆い隠してまぶしさを取り除いている「グレアフリー・デザイン」だということ。そして、「対数螺旋」というカーブを持ったシェードが光を効率よく集めて、テーブル面に500ルクス以上の明るさを得ることができるのです。ちなみに対数螺旋とは、37度の角度で光が入って出ていくもの。ショールームにはこの仕組みをわかりやすく説明した機器も置かれていて勉強になります。


北欧ではシーリングライトのように部屋全体を煌々と照らすあかりを使っていませんが、あかりを上手に組み合わせて居心地のいい空間を作っています。今回取材したショールームも間接照明しか使っていないので部屋全体としては明るすぎない落ち着いた空間になっているのですが、このPH5の下にあるテーブルでお話をうかがっていると手元のノートがものすごく明るく照らされてメモを取りやすいことにびっくりしました。


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PH5の吊り下げ方にも秘密があって、卓上から器具の下端の距離を60cmと低く吊り下げることでテーブルを囲む人々の表情を柔らかく美しく見せる効果があるのですね。そして、十分に明るいのにまぶしくなく、シェードによって生まれる光のグラデーションがなんとも心地よいというこれまでにない照明体験ができたのでした。


ヒュッゲな世界観を作るのに重要な照明について取材した後で足を運んだのが、代官山にショップを構え北欧のヴィンテージ家具を扱う「グリニッチ」の隠れ家。目黒から徒歩7〜8分に位置する築30年ほどのマンションの1室で、同社の家具を中心にそれ以外の家具や雑貨も置かれた実験的な住まい。「実際に人が住んでいないと生きていない空間になる」という考え方から、なんとここは同社の社長さんの住まいでもあるのです。グリニッチは鳥取県の米子市にも拠点があり(店舗とヴィンテージ家具のリペア)、代官山と米子を行き来しているため、東京の住まいがこの隠れ家というわけですね。


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窓の外には緑が広がって、目黒にいるとは思えない立地なのも素晴らしいのですが、濃いブルーの壁紙や椅子の張地を使って特注したカーテン、数々のヴィンテージ家具やグリニッチオリジナルの椅子などが共存し、なんとも居心地のいい空間になっています。週末の夜には低いガラステーブルを囲んでボードゲームをしたり、これまたヒュッゲな暮らしそのもの。


この日、案内してくださった安達さんは「インターネットの発達などで買い物などに費やす時間が少なくなり、家の中で過ごす時間がますます増えていく今、人生100年時代ともいわれている中で、どうやって過ごすのがいいのかを提示する場所にしたい」としています。「こだわった家具などを置くことで気持ちが前向きになったり、趣味に打ち込めたりする。壁のクロスを張り替えるだけでも気持ちが変わるし、それが趣味の一歩になることもある」と。

独立したキッチンも見せていただきましたが、そこにあったのは木製の取っ手がついたamadanaの冷蔵庫! あらためてみるとやっぱり「木目調」ではなく、「本物の木」が使われた冷蔵庫は本当に素敵でした。

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で、1つ思ったのがヒュッゲな暮らしに絶必なのは食洗機なんじゃないかなと。みんなでゆったりとした時間を過ごすには音が静かでみんなが使った食器をまとめて洗える食洗機があればだれかがキッチンにこもって後片付けというのがなくなりますものね。そしてリビングやダイニングにケトルやコーヒーメーカー、コンパクトでインテリア性の高い冷蔵庫などがあったらもっといいなと。秋になったら、そんな記事を家電Watchのコラムで書きたいなと思っています。

posted by sally at 11:22| デザインと暮らしと

2019年10月25日

音声配信「Sallyの家電アトリエ〈RADIO版〉」始めました!

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こんにちは。家電+ライフスタイルプロデューサーの神原サリーです。

前々から挑戦してみたかった音声での配信をいよいよスタートしました。
名付けて「Sallyの家電アトリエ〈RADIO版〉」です。

スマホアプリのRadiotalkiotalkで聴けますし
クリップしていただければ、新しい配信の際にお知らせが届きます!

Sallyの家電アトリエ〈RADIO版〉


第1回は「変わりゆくほぐし家電の世界」と題して
最近のトレンドの手のマッサージ家電のことや
夏に体験してきたマッサージチェアのことなどをお話しています。


皆様、どうぞよろしくお願いします!!!!!



posted by sally at 17:37| Sallyの家電アトリエ〈RADIO版〉

2019年10月23日

キッチン家電をリビングダイニングへ。トーヨーキッチンスタイルのISOLAが作る動線

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こんにちは。家電+ライフスタイルプロデューサーの神原サリーです。

ずいぶん前から提案しているのが「キッチン家電をダイニングやリビングへ」ということです。オーブンレンジも炊飯器も電気ケトルもトースターもコーヒーメーカーも、使う場所であるキッチンやリビングに置くことで家族みんながお手伝いをするきっかけづくりになるし、暮らしそのものがぐんと便利で楽しいものになるのです。昨年の秋に出版した「サリー流『効率家事』」でもこのことに触れていますし、住まいの雑誌などでも提案しています。

そのためにはダイニングに家電を置くためのワゴンがあると便利ですし、リビングとダイニングの境目にどちらからも取り出せるようになっていて、しかも間仕切りのような役目をする低めの棚を置くのもいいなと思っています。置き場所が変わると暮らし方も変わる…何より動線に変化が起きますよね。キッチンを「料理する人のお城」にしてしまって、「入るなオーラ」を出しているから家族が手伝いにくくなるのです。みんなで集えるキッチンやダイニングやリビングにするには住まいそのものを見直す必要があるのかもしれません。

そんな私を感動させたのが、名古屋に本社を置くトーヨーキッチンスタイル(旧トーヨー工業)から発表されたアイランド収納【ISOLA(イゾラ)】。

写真だけ見てもわかりにくいかもしれませんが、収納は壁からセンターへという考えのもと、キッチンだけではなく収納も「アイランド」という発想から生まれたのがこの「ISOLAイゾラ」。キッチンとリビングをつなぐコンパクトでデザイン性の高い収納家具イゾラは、キッチンを向いた面には冷蔵庫やオーブンなど大型家電を組み込むことができ、別の面には炊飯器やコーヒーメーカーなど小型家電を収納。リビング側の面は飾り棚になるのです。ね?これって、私が考えたとおりの機能をもった収納ですよね。

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両側から開閉可能で女性の身長程の高さなので部屋の中心に置いても圧迫感がなく使いやすいのもポイント。トーヨーキッチンスタイルは、LDK空間での動線を研究し、アイランド収納でキッチンとダイニングをつなぐことで、つかいやすいワーキングトライアングルが生まれることを発見したのだといいます。

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1935年創業の同社ですが、この30年ほどは「キッチンを単なる流し台からインテリアに変えたい」と奮闘してきたようで、1985年には実用本位から、くつろぎ楽しめるキッチン空間作りを目指し、インテリアとしての存在感を重視した斬新なキッチンユニットを提案。日本の伝統である漆を生かし扉材として採用し、キッチンの新時代を築き、その思想を貫いているといいます。

同社のウェブサイトを見ると、その後、イタリアンキッチンの考え方を取り入れ、「トーヨーキッチン=イタリアンデザイン」というくらい世界的にも知られるようになってきたのですね。昨年、今年とミラノサローネで心惹かれたmoooi(モーイ)やKartell(カルテル)の家具やインテリアをショールームで取り扱うなど目指す世界観が確固たるものであることがわかります。

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壁面を埋め尽くす収納や手の届かない吊り戸棚など、日本のキッチン収納は長らくものがたくさん入ることだけが重視されてきましたが、キッチンとリビングの間に収納家具を置くことで狭い空間でも多様に使えることを提案していきたいとしている同社の考え方に深く共感します。

今回のこのアイランド収納の【ISOLA(イゾラ)】も実際の家電と組み合わせて見せていくことでより具体的なイメージがわくでしょうし、収納の在り方にも変化が起きるかもしれません。まずは南青山にある東京ショールームを取材し、いずれは名古屋の本社にうかがってこれまでの歴史や今後目指していることなど、聞いてみたいと思います。さらに何かが始まりそうでワクワクします。

posted by sally at 12:58| デザインと暮らしと

2019年10月22日

LIXIL Designが描くこれからの暮らし〜間の間(あいだのま)

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こんにちは。家電+ライフスタイルプロデューサーの神原サリーです。

先週、DAIKANYAMA T-SITE GARDEN GALLERYで開催されていたLIXIL Design主催の「間の間-aidanoma-」のレセプションに出席してきました。LIXILといえば、今年4月に開催されたミラノデザインウィークに初めて出展していたのが印象に残っていますが、こちらはLIXILの中でも水回りを手掛けるINAXによるもの。今回はDESIGART TOKYO2019の一環として、同社のデザインセンターが主体となって“製品化されるかどうかも未定の最先端のデザイン”を世に問うものだとしています。

プレゼンテーションをしてくださったのは、デザインセンター エクステリアグループのデザイナー和田明日香さん。

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間の間(aidanoma)は、「区画を区切るような空間構成が主流となっている現代の暮らしにおいても、風や光、影、音などの“空間の響き”を感じることはとても大切なのではないか。今だからできる空間の響きを模索したい」という想いから生まれたコンセプトだといいます。

光、影、気配を感じることによって、空間と空間を心地よく響かせる提案として、「ゆらぎ」「かさなり」「ふくみ」の3つが展示されていました。

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こちらが「ゆらぎ」。折り重なるいくつもの線がゆらぎを生み、向こう側の景色を気配に変え、その美しい影が空間の広がりを生み出す「塀」に代わるもの。

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私は「景色を気配に変える」という言葉がとても心に残りました。「塀」で遮ったり、区切ったりするのではなく、その向こうの気配を感じて穏やかに生きていく暮らし。江戸の時代にあったような長屋であったり、京の町家の格子などを思わせるような感じがします。

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そしてこちらが、空との心地よいつながりを作る「かさなり」。本来なら、雨や風をしのいだり、光をさえぎるような「ひさし」に代わるものとして、木漏れ日のように幾重にも重なりあった光と影が、奥行きを感じるのびやかでニュアンスのある空間を生み出すとしています。

こちらのプレゼンで和田さんがおっしゃった「ゼロをプラスにするひさし」という言葉が印象的でした。これまでのひさしは自然界の雨、風、光をシャットアウトするもの、つまりマイナスをゼロにして住みやすくしようという考えから生まれていたわけですが、この「かさなり」は光や影、そして風などを味方につけて暮らしをより豊かにしようとしているのですね。

もちろん、従来の「ひさし」が必要な場所ももちろん存在するでしょうけれど、この美しい「かさなり」の考え方を踏まえて暮らしのエクステリアをデザインしていくとしたら、とても素敵な空間が生まれるに違いありません。それは見た目だけではなく、心に作用するのではないでしょうか。

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3つ目の「ふくみ」は、空気を含むようにカーブした形状が空間に響きをもたらして、ちょうどよい距離感のある間合いを生み出すものとして展示されていました。

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これはエントランスなどに活用したり、庭と外とを距離感をもって上手に仕切って“半目隠し”のような状態をつくるのに活用できそうです。

最後に3分間程度のコンセプトムービーも見せてくださったのですが、音楽を含め、本当に素敵で見とれてしまいました。こうした展示をもっと膨らませて、インスタレーションとしてミラノサローネ(ミラノデザインウィーク)に出展してくださったら、どんなに素晴らしいでしょう。LIXILのブランドメッセージを伝えるものとして、きっと注目されるに違いないと思います。

LIXILの広報さんによれば、このデザインセンターが立ち上がったのは2015年。それまで“デザイン”というものが2の次、3の次になりがちだった同社において、もっと重視しなければいけないとして、トップ直轄の部署として生まれたのだそうです。

今回、最後に少しだけご挨拶させていただいたLIXIL HOUSING TECHNOLOGY JAPANデザインセンター センター長の羽賀豊さんは元々ソニーにいらした方だというのにもちょっとびっくり。4年の歳月を経て、今回初めて製品ありきでないコンセプトとしてのデザインのお披露目になったのだといいます。

先日、日立グローバルソリューションズが国立に今年4月にオープンした研究所内の「協創の森」に足を運んだ際にも「これからはますますデザインに力を入れていく」という話がありましたが、LIXILしかり、日立しかり、大手の企業でさえもまだまだデザインに注力しはじめたばかりだということなのですね。

LIXILのデザインセンターが主体になって、ミラノデザインウィークに出展する日を楽しみにしています。
posted by sally at 16:00| デザインと暮らしと